フッ素は体に蓄積する?吸収から排泄までを
歯科医師・薬剤師が解説

「毎日フッ素入りの歯みがき粉を使っていたら、体にどんどん溜まっていくのではないか」——このご心配は、実際の診療でもよくうかがいます。
結論から申し上げます。溜まりません。
理由は、フッ素が体の中で「入る・使われる・出ていく」という流れを絶えず繰り返しているからです。倉庫に荷物を積み上げるように一方通行で溜まっていくのではなく、川の水のように出入りしています。
このページでは、歯科医師と薬剤師の2つの免許を持つ院長が、体に入ったフッ素がどこへ行き、どうやって出ていくのかを、薬の視点から順に解説します。
体に入ったフッ素はどうなる?——全体の流れ
まず全体像です。フッ素は「吸収」→「分布」→「排泄」という3つの段階をたどります。
☟表は、横に動かすことができます(横スクロール可)。
| 段階 | 起こること | おおよその時間 |
|---|---|---|
| ① 吸収 | 胃と小腸から血液中へ入る | 摂取から30分〜1時間で血中濃度がピークに |
| ② 分布 | 血液にのって全身へ。大部分は骨と歯に取り込まれる | 数時間 |
| ③ 排泄 | 腎臓でこし取られ、尿として体外へ | 24時間以内に大半が排出 |
ここからは、それぞれの段階を詳しく見ていきます。
① 吸収|どこから、どのように入るのか

飲み込まれたフッ素は、主に胃と小腸から吸収されます。
吸収はかなり速く、摂取からおよそ30分〜1時間で血液中の濃度がもっとも高くなります。その後は速やかに下がっていきます。
カルシウムがあると、吸収は穏やかになります
ここが薬の考え方として面白いところです。
フッ素は、カルシウムやマグネシウムなどと結びつくと、水に溶けにくい化合物になります。溶けにくいということは、腸から吸収されにくいということです。
そのため、牛乳や乳製品と一緒に摂った場合、フッ素の吸収は穏やかになります。
お子さまが誤って飲み込んでしまったときに「牛乳を飲ませてください」とご案内するのは、この性質を利用したものです。単なる言い伝えではなく、化学的な裏づけのある対応です。
誤飲時の具体的な対応については、こちらのページで詳しく解説しています。
② 分布|体のどこにあるのか

血液に入ったフッ素は全身をめぐりますが、その大部分は骨と歯に取り込まれます。体内にあるフッ素のほとんどが、この硬い組織に存在しています。
一方、筋肉や内臓などのやわらかい組織には、ほとんど残りません。
「溜まる」のではなく「材料になる」
ここがもっとも大切な点です。
骨や歯に取り込まれたフッ素は、異物として貯め込まれているのではありません。骨や歯を構成するハイドロキシアパタイトという結晶に組み込まれ、より酸に溶けにくいフルオロアパタイトという結晶に置き換わります。
つまりフッ素は、建材として使われている状態です。カルシウムが骨の材料になるのと、考え方は同じです。
歯が酸に強くなるという虫歯予防の効果は、まさにこの仕組みから生まれています。
③ 排泄|どうやって出ていくのか

吸収されたフッ素のうち、骨や歯に取り込まれなかった分は、主に腎臓から尿として排出されます。
成人の場合、吸収されたフッ素のおよそ半分が24時間以内に尿から排出されるとされています。残りが骨や歯へと向かいます。
子どもと大人では、少し違います
お子さまの場合、骨が活発につくられている時期にあたるため、大人よりも骨への取り込みの割合が高くなります。そのぶん、尿から出ていく割合は低くなります。
これは異常なことではなく、骨をつくるために材料が使われているという、ごく自然な状態です。
「蓄積」と「利用」は違います

さて、いちばんのご心配にお答えします。
「骨に取り込まれるなら、やっぱり溜まっているのでは?」
ここに大きな誤解があります。
骨は、一度できあがったら二度と変わらない石のような組織ではありません。古い骨が壊され、新しい骨がつくられるという入れ替わりを、生涯にわたって繰り返しています。これを骨の代謝といいます。
そして骨が壊されるとき、そこに取り込まれていたフッ素も一緒に血液中へ戻り、あらためて腎臓から排出されていきます。
つまり骨のフッ素は、一方通行で積み上がっているのではなく、出入りしながらつり合っている状態にあるのです。
これが「蓄積して毒になることはない」と言える、いちばんの根拠です。
私たちの体は、鉄もカルシウムも同じように扱っています。必要なだけ使い、余った分は出す。フッ素だけが特別に溜まり続けるということはありません。
安全域はどれくらい?

薬の世界には「安全域」という考え方があります。普段使う量と、問題が起こりうる量とのあいだに、どれだけ余裕があるかを表すものです。
この余裕が大きいほど、安心して使えます。フッ素の安全域を、年齢ごとに計算してみます。
☟表は、横に動かすことができます(横スクロール可)。
| 年齢 | 平均体重 | 通常使用量の何倍を飲み込むと過剰量に達するか | |
|---|---|---|---|
| 225ppm フッ素洗口液 |
1000ppm フッ素歯みがき粉 |
||
| 1歳6ヶ月 | 10kg | 使用しない | 80倍 |
| 3歳 | 13kg | 使用しない | 104倍 |
| 4歳 | 15kg | 13〜27倍 | 120倍 |
| 5歳 | 17kg | 15〜30倍 | 136倍 |
| 7歳 | 20kg | 18〜36倍 | 80倍 |
*通常使用量は、フッ素洗口液が1回5〜10mL、フッ素歯みがき粉が6歳未満で1回0.25g、6〜14歳で1回0.5gとして計算。過剰量は体重1kgあたり2mgとしました。
表を読むときの3つのポイント
ポイント1|なぜ7歳で倍率が下がるのか
歯みがき粉の列を縦に見ると、80 → 104 → 120 → 136 と増えてきて、7歳で急に80に下がります。
これは危険が増したという意味ではありません。6歳から歯みがき粉の使用量が0.25gから0.5gへ倍になるためです。絶対量で見れば余裕はむしろ増えており(34mg→40mg)、割り算の分母が変わっただけです。
ポイント2|「使用しない」の意味
1歳6ヶ月と3歳で洗口液が「使用しない」となっているのは、危険だからではありません。この年齢ではまだ上手にうがいができないため、そもそも洗口という方法を選ばない、というだけのことです。
ポイント3|なぜ2mg/kgで計算したのか
急性中毒の目安としては、現在は体重1kgあたり5mgという値が用いられています。
それでも当院がこの表で2mg/kgを使っているのは、より安全側に立って計算するためです。5mg/kgで計算すれば、上の表の倍率はさらに2.5倍大きくなります。つまり実際の余裕は、この表よりもさらに大きいということです。
中毒量の詳しい考え方については、こちらで解説しています。
腎臓の働きが気になる方へ

これまで見てきたとおり、フッ素が体外へ出ていく主な経路は腎臓です。
歯みがき粉や洗口液を通常どおりお使いになる範囲では、腎臓に負担がかかることはありません。そもそも体に入る量がごくわずかだからです。
ただし、腎臓の病気で治療を受けておられる方は、受診の際にその旨をお伝えください。お口の状態や全身の状況をふまえて、適した予防方法をご提案いたします。
よくあるご質問
Q. 何年も使い続けたら、さすがに溜まりませんか?
溜まりません。骨のフッ素は骨の入れ替わりとともに血液へ戻り、排出されていきます。10年使っても20年使っても、体は同じように「入っては出す」を繰り返します。
Q. カルシウムのサプリメントを飲んでいます。影響しますか?
問題ありません。カルシウムはフッ素の吸収を穏やかにする方向に働きます。歯みがき粉のフッ素は、そもそも飲み込む量がごくわずかですので、いずれにせよ気にしていただく必要はありません。
Q. 水道水からもフッ素を摂っているのですか?
ごく微量ですが、摂っています。日本の水道水には自然由来のフッ素が平均で約0.1ppm程度含まれています。なお日本では、アメリカなどのように水道水へフッ素を加えることは行われていません。
Q. 食べ物からはどのくらい摂っていますか?
日本で行われた研究では、成人が食事から摂るフッ素は1日あたり平均で約1.44mgと推定されています(副島, 1994)。
またドイツの3〜6歳児を対象とした調査(Haftenberger ら, 2001)では、フッ素の総摂取量のうち約4分の3が食品や飲料から、約4分の1が歯みがき粉からと報告されています。つまり私たちが摂るフッ素の大部分は、歯みがき粉ではなく日常の食事からということになります。
*Haftenberger らの調査は2001年のドイツで行われたものです。食習慣も歯みがき粉の推奨濃度も異なるため、日本の子どもに同じ比率がそのまま当てはまるとは限りません。
どんな食品に含まれているかは、フッ素を含む食べ物のページでご紹介しています。
Q. 飲み込んでしまったときはどうすればいいですか?
量によって対応が変わります。こちらのページに、体重別の目安と中毒110番の連絡先を掲載しています。
当院の考え方

・院長は歯科医師と薬剤師の2つの免許を持っています。「体の中で薬がどうふるまうか」という視点から、ご説明いたします
・お一人おひとりの虫歯のリスク、年齢、全身の状態をうかがったうえで、必要な方に必要な方法をご提案します
・管理栄養士が在籍しており、食事からのフッ素摂取についてもご相談いただけます
・保育士が在籍し、お子さまが不安なく通えるようサポートします
・「フッ素は使いたくない」というお考えも尊重します。その場合の代わりの予防方法もご提案いたします
大倉山・港北区にお住まいの方が通いやすいよう、当院は東急東横線「大倉山駅」から徒歩2分、1階にございます。
メールでのご相談もお受けしています。「フッ素が体に溜まらないか心配」といったご質問でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。
まとめ
・フッ素は吸収 → 分布 → 排泄という流れをたどり、24時間以内に大半が体外へ出ていきます
・骨や歯に取り込まれたフッ素は、溜め込まれているのではなく、材料として使われています
・骨の入れ替わりとともに血液へ戻り、あらためて排出されるため、一方的に積み上がることはありません
・安全域は、通常の使い方の80〜136倍。しかもこれは安全側に立った計算です
フッ素の全体像についてはフッ素の解説ページにまとめています。
*本サイトでは分かりやすさを優先し、フッ化物・フッ素化合物を総称して「フッ素」と表記しています。
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参考文献
・日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」2023年1月1日
https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230106.pdf
・日本口腔衛生学会 声明・提言一覧
https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/statement/
・Haftenberger M, Viergutz G, Neumeister V, Hetzer G: Total fluoride intake and urinary excretion in German children aged 3-6 years. Caries Res, 35: 451-457, 2001.
・副島 隆:食品中のフッ素含有量に関する研究.口腔衛生学会雑誌 44(3): 342-353, 1994.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh1952/44/3/44_3_342/_article/-char/ja
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