フッ素の種類と特徴
歯科医師・薬剤師が解説
歯みがき粉の裏側にある成分表示を、じっくり見たことはありますか。虫歯予防に効果があるのが「フッ素」成分です。
「薬用成分」の欄には、フッ化ナトリウム(NaF)、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、フッ化第一スズのいずれかのフッ素成分名が書かれています。
実は、同じ「フッ素入り」でも、3種類のフッ素成分は同じではありません。
結論から申し上げます。どれを選んでも虫歯予防に有効です。しかし、効き方の性質が少しずつ異なります。
このページでは歯科医師と薬剤師の2つの免許を持つ院長が、3種類のフッ素成分の特徴を薬の仕組みから解説します。
*歯科で使うフッ素は、正確には「フッ化物」と呼ばれるものです。本サイトでは分かりやすさを優先し、フッ化物・フッ素化合物を総称して「フッ素」と表記しています。
日本で使えるフッ素は3種類だけ

日本では、フッ素配合の歯みがき粉は医薬部外品として位置づけられています。そして配合できるフッ素として承認されているのは、次の3種類だけです。
・フッ化ナトリウム(NaF)
・モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)
・フッ化第一スズ(SnF2)
日本歯科医師会の解説でも、この3種類が承認されていることが明記されています。
国内で販売されている歯みがき粉では、フッ化ナトリウムとモノフルオロリン酸ナトリウム、またはその組み合わせが多く使われています。
成分表示のどこを見ればいい?
パッケージの「薬用成分」または「有効成分」の欄をご覧ください。上の3つのいずれかが記載されています。
なお「フッ素配合」「フッ素入り」という表示だけでは、どの種類かは分かりません。成分名まで確認するのが確実です。
3種類の比較

☟表は、横に動かすことができます(横スクロール可)。
| 種類 | 特徴 | こんな方に |
|---|---|---|
| フッ化ナトリウム (NaF) |
効果が早く、歯の表面に作用しやすい | 幅広い方に。国内製品でもっとも一般的 |
| モノフルオロリン酸ナトリウム (MFP) |
NaFより効果はゆっくりだが、より深くまで浸透する | 幅広い方に。NaFとの併用製品も多い |
| フッ化第一スズ (SnF2) |
抗菌作用もあわせ持つ。一方、スズにより長期使用で歯の着色をまねく場合がある | 虫歯菌が多い方。着色が気になる方には不向き |
なぜ効き方が違うのか——薬の視点から

「効果が早い」「ゆっくり」という違いは、フッ素がどのように結びついているかから生まれます。ここが薬学のいちばん面白いところです。
フッ化ナトリウム(NaF)|すぐにフッ素を放出する
NaFは口の中で、ただちにフッ化物イオン(F−)を遊離します。
放出されたF−は、歯のエナメル質をつくるハイドロキシアパタイトの構造の中で、OH−と入れ替わります。こうして生まれるのが、酸に強いフルオロアパタイトです。
さらにNaFには、もうひとつの働きがあります。歯の表面にフッ化カルシウム(CaF2)を沈着させるのです。
この沈着物は、フッ素を少しずつ放出し続ける「貯金箱」のような役割を果たすと考えられています。歯をみがき終わったあとも、しばらく効果が続く仕組みです。
モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)|分解されてから効く
一方MFPは、フッ素が分子の中にしっかり組み込まれています。口の中では PO3F2− という形で存在し、そのままではフッ素として働けません。
口の中にあるリン酸を分解する酵素などの働きで分解されて、はじめてF−になります。
つまりMFPは、効くまでにワンクッション置くのです。これが「効果がゆっくり」と言われる理由です。
そしてこのゆっくりさが、深部まで浸透するという特徴につながっていると考えられています。
フッ化第一スズ(SnF2)|抗菌作用をあわせ持つ
フッ化第一スズは、フッ素の働きに加えて、スズによる抗菌作用を持っています。虫歯菌の活動を抑える効果が期待できます。
一方で、そのスズが歯の着色をまねく場合があることが知られています。長期に使う場合は、この点を踏まえてお選びください。
研究では何が分かっているのか

NaFとMFPの違いは、実際の研究でも確かめられています。
浸透の深さの違い
山岸敦先生らは2007年、口腔衛生学会雑誌に発表した研究で、X線マイクロラジオグラフという手法を使ってエナメル質の断面を解析しました。
その結果、NaFは即効性が高く表層近くに強い耐酸性を与えるものの、深部にはその効果が至らないこと、一方MFPは表層の耐酸性ではNaFに劣るものの、深部まで浸透して厚く均一な耐酸性の層をつくることが示されています。
酸への強さの違い
Ingram氏は1972年、酸性の条件下ではMFPで処理したもののほうが高い耐酸性を示したと報告しています。
専門家で意見が分かれることも
ここは正直にお伝えします。
実際のお口の中では、虫歯の進行段階、pH、歯みがき粉の濃度、使う頻度や方法など、さまざまな条件が絡み合います。
そのため専門家の間でも見解が分かれる部分があります。
「どちらが優れているか」ではなく、状況に応じて選ぶ——これが現時点での妥当な考え方です。
種類より大切なこと——濃度を確認してください

ここまで種類の話をしてきましたが、実は種類選びより大切なことがあります。
2017年に上限が引き上げられました
日本の歯みがき粉のフッ素濃度は、長らく1,000ppmが上限とされてきました。
しかし2017年3月、厚生労働省により上限が1,500ppmまで緩和されました。
現在、大人向けの製品の主流は1,450〜1,500ppmです。もし手元の歯みがき粉が1,000ppm以下であれば、それは緩和前の規格か、お子さま向けの製品ということになります。
*高濃度のフッ素を含む歯みがき粉には、年齢による使用上の注意を表示することが義務づけられています。
年齢に合った濃度を
6歳未満のお子さまには、900〜1,000ppm程度の製品が推奨されています。6歳以上の方には1,400〜1,500ppmです。
種類(NaFかMFPか)より、濃度と使う量のほうが、虫歯予防効果への影響は大きいとお考えください。
結局、どれを選べばいいのか

☟表は、横に動かすことができます(横スクロール可)。
| こんな方に | 選び方 |
|---|---|
| 特にこだわりがない | NaF・MFPどちらでも構いません。濃度(1,450〜1,500ppm)で選んでください |
| 6歳未満のお子さま | 種類は問いません。900〜1,000ppm程度の製品を |
| 歯ぐきが下がってきた | 種類より濃度優先。1,450〜1,500ppmのものを |
| 虫歯になりやすい | NaF・MFP|抗菌作用のあるフッ化第一スズも選択肢になります |
| 着色が気になる | フッ化第一スズ以外をお選びください |
そして、最も大切なことをお伝えします。
種類を吟味するより、年齢に合った濃度の製品を、適切な量で、毎日2回使い続けること。これが虫歯予防に大事なことです。
よくあるご質問
Q. NaFとMFP、どちらが優れていますか?
優劣はありません。効き方の性質が違うだけです。研究でも「条件によって結果が変わる」ことが示されており、専門家のあいだでも見解が分かれています。どちらを選んでも虫歯予防に有効です。
Q. 両方入っている製品を見かけますが、大丈夫ですか?
問題ありません。国内では、NaFとMFPを組み合わせた製品も多く販売されています。それぞれの特徴を活かす狙いによるものです。
Q. 子ども用はどれを選べばいいですか?
種類ではなく、濃度でお選びください。6歳未満のお子さまには900〜1,000ppm程度の製品が推奨されています。使用量は年齢によって変わりますので、詳しくはフッ素配合の歯磨き粉のページをご覧ください。
Q. フッ化第一スズの着色は落ちますか?
歯科医院でのクリーニングで改善が期待できます。着色が気になる場合は、ほかの種類への変更もご検討ください。診察の際にご相談いただければ、お口の状態に合わせてご提案いたします。
Q. 歯科医院で塗るフッ素も同じ種類ですか?
歯科医院で使用するフッ素は、市販の歯みがき粉より高濃度のものです。処置の内容についてはフッ素塗布のページでご説明しています。
当院の考え方

・院長は歯科医師と薬剤師の2つの免許を持ち、薬の成分と作用の仕組みを踏まえてご説明いたします
・お使いの歯みがき粉をお持ちいただければ、成分表示を一緒に確認し、お口の状態に合っているかご相談に応じます
・お一人おひとりの虫歯のリスクに合わせて、必要な方に必要な方法をご提案します
・管理栄養士と保育士が在籍しています
大倉山・港北区にお住まいの方が通いやすいよう、当院は東急東横線「大倉山駅」から徒歩2分、1階にございます。
メールでのご相談もお受けしています。「この歯みがき粉でいいのか分からない」といったご質問でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。
まとめ
・日本で歯みがき粉に配合できるフッ素はNaF・MFP・フッ化第一スズの3種類です
・NaFはすぐにフッ素を放出し、MFPは酵素で分解されてから働きます。この違いが効き方の差を生みます
・研究では浸透の深さに違いが示されていますが、専門家のあいだでも見解が分かれる部分があります
・種類より濃度が大切です。2017年に上限が1,500ppmまで緩和されました
・成分表示の「薬用成分」欄をご確認ください
フッ素の全体像についてはフッ素の解説ページにまとめています。
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参考文献
・山岸 敦ほか:口腔衛生学会雑誌 57(1): 13-21, 2007. DOI: 10.5834/jdh.57.1_13
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/57/1/57_KJ00004494293/_article/-char/ja/
・押野一志ほか:口腔衛生学会雑誌 54(1): 2-8, 2004. DOI: 10.5834/jdh.54.1_2
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/54/1/54_KJ00003758398/_article/-char/ja/
・Ingram, G.S.: Caries Res, 6: 1-15, 1972. DOI: 10.1159/000259766
・日本歯科医師会「テーマパーク8020|フッ化物」
https://www.jda.or.jp/park/prevent/index05_12.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「フッ化物配合歯磨剤」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-007.html
・日本口腔衛生学会ほか4学会「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」2023年1月1日
https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230106.pdf
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