虫歯予防方法「フッ素配合の歯磨き粉」

フッ素配合の歯磨き粉は虫歯予防として最も簡単で身近な方法で、子供から大人まで幅広い年齢に使用できます。

フッ素の効果や安全性は75年以上にわたり、繰り返し確認され、WHO(世界保健機関)、厚生労働省、日本歯科医師会など世界の150を超える多くの専門機関が推奨されています。

現在、国内の市販の歯磨き粉の約9割にフッ素が配合され、広く普及し、虫歯の予防に大きな貢献を果たしています。

ここでは、フッ素配合の歯磨き粉の効果や使用方法、安全性などについて、わかりやすく解説していきます。

歯磨きをする親子のイラスト画像

虫歯予防に役立つフッ素の働きとは

歯の修復(再石灰化)を促進する

歯の脱灰と再石灰化を示す画像

フッ素は、酸によって歯から溶け出した(脱灰)カルシウムやリンを再び取り込み、修復(再石灰化)を促します。

初期虫歯の修復

脱灰が進み、穴が開く一歩手前の「初期虫歯」を再石灰化で修復します。

歯質を強化する

歯質の強化を表す画像

フッ素は、酸に溶けにくい強い歯をつくるのに役立ちます。特に乳歯や生えたばかりの永久歯は、フッ素を取り込みやすく、歯質を強化しやすいといわれています。

虫歯菌が酸をつくるのを抑える

フッ素による虫歯菌の抑制効果

フッ素は虫歯菌の活動を弱めて酸をつくるのを抑え、歯を守ります。

虫歯予防の効果

フッ素配合の歯磨き粉の虫歯予防効果は、約30〜40%と多くの論文で報告されています。

フッ素の虫歯予防効果を示す画像

大人の虫歯にも効果的

また成人から高齢者で増加する「歯の付け根の虫歯(根面う蝕)」では、67%の虫歯予防効果も報告されています。

歯磨き粉で虫歯を予防する高齢者

高齢者の虫歯が増加傾向であることを示すグラフ

歯の付け根の虫歯

高濃度フッ素配合の歯磨き粉

従来より高い濃度のフッ素を配合した歯磨き粉が、2017年3月に厚生労働省より医薬部外品として承認され、さらに高い虫歯予防効果が報告されています。

高濃度フッ素配合の歯磨き粉のイラスト画像

今までより高いフッ素濃度を配合可能に

2017年3月に法律の改正により、歯磨き粉のフッ素濃度の上限は従来の1000ppm(0.1%)から1500ppm(0.15%)と引き上げられ、高濃度フッ素配合の歯磨き粉が医薬部外品として厚生労働省から承認され、推進されるようになりました。

より高い虫歯予防効果

フッ素濃度の高い方が虫歯予防効果が高く、WHOによると、フッ素濃度が1000ppmを超える歯磨き粉の場合、500ppm濃度が高くなるにつれ、約6%ずつ虫歯予防効果が上昇します。

注意点

6歳未満の子供は、高濃度フッ素(1450ppmF=0.145%)の歯磨き粉は使用を控えてください。

フッ素塗布との併用で高まる虫歯予防効果

他のフッ素応用方法(フッ素洗口やフッ素塗布など)と併用すると、フッ素の虫歯予防効果はさらに高まることが明らかになっています(通常の用法・用量で摂取過剰になることはありません)。

フッ素配合歯磨き粉とフッ素塗布を併用すると、フッ素塗布のみの場合と比べ、虫歯の有病率が約64%減少したと報告されています。

(参考文献)「乳歯う蝕に対する負荷kぶつ歯面塗布とフッ化物配合歯磨剤の複合応用」

低濃度フッ素は?

フッ素濃度500ppm未満の歯磨き粉(液スプレーを含む)は虫歯予防効果が低く、250ppm未満では虫歯予防効果を認めないことが報告されています(日本歯科医師会の資料)。

フッ素配合歯磨き粉は子供も使って良いの?
何歳から使い始めれば良い?

現在、フッ素配合の歯磨き粉は歯があるすべての方に向けて、原則推奨されています。

子供や大人、高齢者が虫歯予防をする画像

歯磨き粉はいつから使い始める?

歯が生え始めた頃(生後6〜8ヶ月)から少量のフッ素配合の歯磨き粉を使うことが推奨されています。

☞2023年1月、歯科の専門的な4学会[日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会]から合同で発表されました。

ここがポイント

  • 乳歯は永久歯より虫歯が進行しやすい。
  • 高い安全性と虫歯予防効果が証明されている。

赤ちゃんの歯磨きの画像

大人もフッ素歯磨き粉の効果ある?

大人になってからも虫歯予防効果は期待できるため、生涯にわたっての使用が推奨されています。特に大人・高齢者でなりやすい「歯の根っこの虫歯」の予防に効果があります。

大人にもフッ素の効果はあることを伝える画像

注意点

ただし、以下の注意点があります。

  • 要介護者で嚥下障害がある場合はガーゼや吸引器を使って、余分な水分を吸うのも良いでしょう。

フッ素の毒性・危険性は?

フッ素は通常の使用量で毒性や危険性はありません。フッ素の安全性や虫歯予防効果は75年以上の歴史で繰り返し確認され、WHO(世界保健機関)や日本歯科医師会など世界の150を超える専門機関で証明されています。

フッ素の中毒量は5mg/kg(体重)[*]といわれ、10〜15kgの子供で約50〜75mgです。子供が歯磨き粉1本を丸飲みしたり、成人が歯磨き粉2〜3本を丸飲みする程の量で、通常は起こり得ません。

歯の相談を担当する歯科衛生士の画像

*フッ素中毒は以前、2mg/kg(1899年に報告)とされていましたが、科学的に裏付けが乏しく、5mg/kg(1987年に報告)が採用されるようになりました。

フッ素の毒性・危険性は?

1日3回の使用も問題なし

1回の歯磨き粉に含まれるフッ素の量は子供で約0.01〜0.25mg、成人で1mg程度であるため、1日3回の使用しても問題ありません。

フッ素洗口液(うがい)やフッ素塗布と併用可

虫歯効果を高めるために、他のフッ素応用方法を併用しても全く問題ありません。

*1回のフッ素洗口後に口の中に残るフッ素量は0.1〜0.2mg程度(毎日法)で、1回のフッ素塗布後に口に残る量は1〜2mg程度です。

フッ素の種類

歯磨き粉に配合されるフッ素は、「フッ化ナトリウム(NaF)」と「モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)」、「フッ化第一スズ(SnF₂)」の3つがあります。ほとんどの歯磨き粉は虫歯予防を目的に、いずれか1種類のフッ素成分を含んでいます。

歯磨き粉の成分の解説画像

フッ素の種類と各特徴

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フッ素の種類 特徴
フッ化ナトリウム(NaF)
  • 即効性が高い。
  • 歯の表面の歯質を強くする。
モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)
  • 歯の深部に浸透して歯質を強くする(特に、穴が開く手前の初期虫歯に有効)。
フッ化第一スズ(SnF₂)
  • スズイオンによる殺菌のほか、歯垢(プラーク)がつきにくくなる(虫歯や歯肉炎の予防)。
  • 歯が茶色く着色することがある。

(参考文献)「950ppmF フッ化ナトリウムおよびモノフルオロリン酸ナトリウムのエナメル質耐酸性に及ぼす影響」山岸敦先生ら 口腔衛生会誌57:13-21,2007

歯磨き粉の種類

歯磨き粉は「ペーストタイプ」を主流とし、「ジェルタイプ」、「泡(フォーム)タイプ」などの種類があります。

歯磨き粉の種類の画像

ペースト、ジェル、泡タイプ どれが良い?

☟下の表は、縦横に移動(スクロール)できます。

歯磨き粉の種類 メリット(利点) デメリット(欠点)
ペーストタイプ
  • ステイン(着色や色素汚れ)を除去しやすい。
  • 泡立ちやすい。
  • 泡立ちが苦手な方もいる。
ジェルタイプ
  • 歯と歯の間や歯茎の隙間など細かい部分まで浸透しやすい。
  • 歯に密着しやすい。
  • 歯茎を傷つけにくい。
  • ステイン(着色や色素汚れ)を除去しにくい。
  • 吐き出しができない低年齢児に向いている。
泡(フォーム)タイプ
  • 口の中で広がりやすい。
  • すすぐのが簡単である。
  • 歯茎を傷つけにくい。
  • ステイン(着色や色素汚れ)を除去しにくい。
  • 吐き出しができない低年齢児に向いている。

使用方法
(
年齢別の使用量、フッ素濃度)

フッ素配合歯磨き粉の推奨される使用方法が2023年1月、歯科の専門的な4学会[日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会]から合同で発表されました(以下参照)。

☟下の表は、縦横に移動(スクロール)できます。

年齢 使用量 フッ素濃度 使用方法
歯が生え始めて

(生後約6ヶ月)から2歳

米粒程度(1〜2mm程度) 900〜1000ppmF

(0.09〜0.1%)

  • 就寝前を含めて1日2回の歯磨きをする。
  • 歯磨きの後にティッシュなどで歯磨き粉を拭き取ってもよい。
3〜5歳 グリーンピース程度(5mm程度) 900〜1000ppmF

(0.09〜0.1%)

  • 就寝前を含めて1日2回の歯磨きをする。
  • 歯磨きの後は少量(10〜15mL)の水で1回のみ、うがいをする。
6歳〜成人・高齢者 歯ブラシ全体

(1.5cm〜2cm)

1400〜1500ppmF

(0.14〜0.15%)

  • 就寝前を含めて1日2回の歯磨きをする。
  • 歯磨きの後は少量(10〜15mL)の水で1回のみ、うがいをする。
  • チタンインプラントが入っていても、他に歯がある場合には歯磨き粉を使用する。

(参考資料)「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」2023年1月1日 日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会

昔と違う フッ素歯磨き粉の位置づけ

歯磨き粉は虫歯予防薬

フッ素配合の歯磨き粉は歯磨きの補助ではなく、虫歯予防のお薬と位置付けられています。

歯磨きの仕方よりも虫歯予防効果をもつフッ素配合歯磨き粉をきちんと使用することがとても重視されています(「フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方」より)。

6歳未満のフッ素濃度の変更

従来は6歳未満に向けたフッ素は500ppmF(泡タイプを除く)で濃度や効果が低い水準でしたが、新しい指針ではフッ素濃度が1000ppmF(0.1%)へと変更され、国際基準に近づきました。

インプラントの方にも使用推奨

2014年に、酸性で高濃度のフッ素にインプラントを腐食させる可能性があると報告されましたが、実際の人の口の中では唾液でフッ素濃度は20%以下に薄まることが示されています。今回、通常の中性のフッ素配合歯磨き粉では腐食の可能性はないことが改めて報告されました。

またインプラントをしていても、天然の歯がある場合にはフッ素による虫歯予防効果を考える必要があります。

インプラントとフッ素配合歯磨き粉

虫歯予防効果を高める工夫

フッ素配合歯磨き粉の虫歯予防の効果を高めるには、歯磨きした後もフッ素をなるべく長く残すことが大切です。フッ素を残すための、歯磨きのちょっとした工夫を紹介していきます。

すすぎは少量の水で1回のみ

歯磨きの後のうがい(すすぎ)は10〜15mLの少量の水で1回ゆすぎ、その後1〜2時間飲食を控えます。

歯磨き後のうがいに使う少量コップ

寝る前に使うのが効果的

就寝中は唾液の分泌が減り、虫歯が進行しやすい時間帯です。

虫歯のリスクが高まる時間帯(就寝中)の前に、フッ素配合の歯磨き粉を使って虫歯予防につなげましょう。

メリットとデメリット

☟下の表は、横に移動(スクロール)できます。

フッ素配合歯磨き粉の特徴 内容
メリット(利点)
  • 虫歯予防効果が高い
  • 安全性が高く、子供から大人まで幅広い年齢層で使用可能
  • 使い方が簡単で、自宅で使用可能
  • 他のフッ素応用方法と併用可能
デメリット(欠点)
  • 濃度1500ppmの場合、6歳未満の子供の使用は控える

歯磨き粉が苦手な人

歯磨き粉をつけて歯磨きするのが苦手な人は、次の方法を参考にしてください。

  1. まず歯磨き粉をつけずに歯磨きをします(「から磨き」)。
  2. 歯ブラシでフッ素配合の歯磨き粉を歯全体に行き渡らせるように広げましょう。それも難しい方は、フッ素配合の洗口液(うがい)で使ってゆすぎしょう。

フッ素洗口

フッ素歯磨き粉の普及率

フッ素配合歯磨き粉は世界で約15億人(2001年時点)が利用し、日本でも市販の歯磨き粉のほとんど(約9割)にフッ素が配合されています。

1970〜1980年代にかけて世界的に急速に普及し、日本でも虫歯の予防に大きな貢献を果たしています。

フッ素配合の歯磨き粉の普及率と虫歯本数の減少を

まとめ

フッ素配合歯磨き粉は最も普及している虫歯予防法の一つで、虫歯の減少に国際的にも大きく貢献しています。

虫歯の予防、フッ素についてご不明な点等ございましたら、お気軽にご相談ください。

(関連記事)

フッ素配合の歯磨き粉の使い方

フッ素の3種類の応用方法

フッ素洗口

フッ素歯面塗布

歯を守る歯磨き粉

*本サイトでは理解して頂きやすいよう、フッ化物、フッ素化合物を総称してフッ素と表現しています。

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