薬の副作用で歯茎が腫れる?!
「薬物性歯肉増殖症」について
「歯茎がずっと腫れている?!」実は、服用中のお薬の副作用で歯茎が腫れたり、増殖することがあります。歯茎が増殖すると、歯磨きがしにくく、歯周病が悪化しやすくなります。
ここでは、お薬の副作用で起きる「薬物性歯肉増殖症」について、解説致します。
薬物性歯肉増殖症は、特に高血圧やてんかん、免疫を抑えるお薬の場合に発症することがあります。
目次
薬物性歯肉増殖症とは?
薬物性歯肉増殖症とは、薬物性お薬の副作用で、歯肉が異常に増殖する病気です。
特に、
- 高血圧
- てんかん
- 免疫を抑えるお薬
をお使いの場合に発症することがあります。
薬物性歯肉増殖症は、1939年に抗てんかん薬(フェニトイン)の副作用として初めて報告され、1983年に免疫抑制剤(シクロスポリン)、1984年に降圧薬(カルシウム拮抗薬:ニフェジピン)も同様の副作用を持つことが発表されました。
原因
薬物性歯肉増殖症の原因は、特定のお薬による副作用と考えられています。
歯肉増殖を引き起こす原因のお薬は、
- カルシウム拮抗薬(狭心症、高血圧症)
- 抗てんかん薬
- 免疫抑制剤
の3種類に大きく分けられます。
高血圧や狭心症のお薬
カルシウム拮抗薬
超高齢社会に伴い、高血圧症や狭心症の患者数は増加傾向にあります。このお薬は合併症や腎機能障害のある高齢者などにも使用できる場合が多く、よく処方されるお薬です。
☟下の表は、縦横に移動(スクロール)できます。
種類 | お薬の名前 | 発生率 |
---|---|---|
ジヒドロピリジン系 |
|
約20%(〜50%) |
|
約1.7〜5% | |
カルスロット | 約1〜2% | |
アテレック | 約1〜2% | |
ベンゾジアゼピン系 | ヘルベッサー | 約18% |
フェニルアルキルアミン系 | ワソラン | 約4% |
てんかんのお薬
フェニトイン
抗てんかん薬のうち、「フェニトイン(例:アレビアチン®、ヒダントール®)」は副作用で歯肉増殖症を起こす可能性があるお薬として最初に報告されました。(1)〜(3)の中で歯肉増殖症の発症率は最も高く、約50%と報告されています。
免疫異常を抑えるお薬
シクロスポリンA
「シクロスポリンA」は免疫異常(例:臓器移植後の拒絶反応や膠原病、リウマチ性疾患)を抑える目的で使用されるお薬で、歯肉増殖症の発症率は約30%といわれています。
臓器移植を受けた方では腎臓や心臓、肝臓などの臓器に持病があることも多く、「カルシウム拮抗薬」を併用している場合、さらに歯肉増殖症の発症率は高まることがわかっています。
症状
歯茎の形や大きさ、厚みの異常
薬物性歯肉増殖症では、歯茎がモコモコと腫れた(増殖)ような形になり、上下の前歯に発生しやすいのが特徴です。
重度の場合、歯の大半を覆ってしまうこともあり、歯磨きや食事、会話に影響を及ぼします。
服用後いつ頃出てくる?
歯茎の異常はお薬を服用後、約2〜3ヶ月で出てくるといわれています。
歯並びや噛み合わせ
重度の歯ぐきの増殖の場合、歯を移動させてしまうこともあり、歯並びや噛み合わせの異常を引き起こす場合もあります。
入れ歯が合わなくなる
歯茎の形が変わり、入れ歯が合わなくなることがあります。
口臭
歯茎が歯を覆うように増殖するため、歯磨きがしにくくなります。
また細菌が繁殖しなりやすくなるため、口臭が強くなることが報告されています。
貧血
過剰に増殖した歯茎は上下反対側の歯と接触するため、出血しやすくなります。ひどい場合には貧血を起こす場合もあります。
予防・治療
薬物性歯肉増殖症はお薬の副作用ですが、歯垢(プラーク)や歯石などがあると歯茎の炎症が悪化しやすくなります。
予防や治療については、お薬の中止や変更よりも歯茎の治療を優先することが大切といわれています。
歯茎に異常を感じたら、あわてずにまず担当医と相談し、歯垢や歯石は歯科医院で取ってもらうと良いでしょう。
該当する病気の患者数
☟下の表は、左右に移動(スクロール)できます。
病気の種類 | 国内患者数 |
---|---|
高血圧症 |
|
心臓病 | 約170万人 |
てんかん | 約100万人 |
臓器移植 | 約2600人 |
*厚生労働省「2017年患者調査の概況」、「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」等を参考
臓器移植、自己免疫疾患
臓器移植件数の推移
日本における臓器移植は1997年に「臓器移植法」が施行、さらに2010年改正施行されて以来、2019年には年間約2700件の臓器移植が行われ、増加傾向にあります。
自己免疫疾患の患者数の推移
膠原病(自己免疫疾患)は国内で2018年時点で約100万人規模で存在し、増加傾向にあります。
*当院では大学病院出身の歯科医師や薬剤師も在籍しております。ご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。
まとめ
高血圧やてんかん、免疫を抑えるお薬を服用中の場合、薬物性歯肉増殖症を発症することがあります。また歯茎が増殖すると、歯磨きがしにくくなり、歯周病が悪化することもあります。
一方で、定期的に歯のクリーニングなどを行うことで、歯茎の炎症を防ぎやすくなります。歯茎の異変を感じた場合は、お気軽にご相談ください。
*当院では大学病院出身の歯科医師や薬剤師も在籍しております。ご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。
*服用中のお薬がある場合は、担当歯科医師にお申し出ください。
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