失活歯(神経のない歯)がなぜ痛い?

「神経を取ったはずなのに、噛むと痛い」
その痛みは、歯の周りの組織から生じていることがあります。
以前に神経を取った歯や、根の治療を終えた歯が痛むと、「神経が残っているの?」「治療がうまくいかなかったの?」と心配になるかもしれません。
歯の中の神経がなくなっても、歯の周りの神経までなくなるわけではありません。歯を支える膜や歯ぐきなどは痛みを感じるため、炎症や強い力が加わると、神経のない歯でも痛むことがあります。[1]
このページでは、痛みが出るしくみ、考えられる原因、受診の目安、検査・治療について、順番にご説明します。
強い痛みや腫れがある方は、先に「受診の目安」をご確認ください。
失活歯とは?
神経がなくても痛むしくみ

歯の中には、神経や血管を含む「歯髄(しずい)」という組織があります。一般に「歯の神経」と呼ばれているのは、この歯髄のことです。
失活歯(しかつし)とは、むし歯や外傷などで歯髄が死んでしまった歯、または治療で歯髄を取り除いた歯を指します。根管治療では、歯の内部を清掃・消毒し、根の中の空間を材料で封鎖します。[2]
一方、歯の根と骨の間には「歯根膜(しこんまく)」という薄い膜があり、歯を支えています。歯根膜には、噛む力などを感じる神経に加えて、痛みを感じる神経も分布しています。歯ぐきなどの周囲の組織にも神経があります。[1]
たとえるなら、歯の中と歯の周りには、それぞれ別の「痛みを知らせるセンサー」があるようなものです。歯の中のセンサーが働かなくなっても、周りのセンサーは働いています。
そのため、歯の根の周りに炎症が起きたり、噛む力が強くかかったりすると、「噛むと痛い」「歯が浮いた感じがする」といった症状が出ます。痛みがあることだけで、神経の取り残しや治療の失敗とは判断できません。
神経のない歯が痛む主な原因

次のような原因が考えられます。症状が似ている場合や、複数の原因が重なっている場合もあるため、診察で確認することが大切です。
① 根の先の周りに炎症がある
根の中の細菌などが原因で、根の先の周囲に炎症が起きることを「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」といいます。噛んだときの痛みや、歯が浮く感じ、歯ぐきの腫れなどが出ることがあります。炎症があっても、必ず膿がたまるわけではありません。
歯の根の中は細く複雑なため、治療後も感染が残る場合があります。また、新しいむし歯や、詰め物・被せ物のすき間から細菌が入り、再び感染する場合もあります。[3]
② 根の治療後、周囲の組織に痛みが残っている
根の治療をした直後は、処置の刺激や、もともとあった炎症の影響で、噛むと痛むことがあります。軽い痛みが数日かけて落ち着いていく場合もありますが、経過には個人差があります。
痛みが強い、だんだん悪化する、腫れが出る、数日たっても軽くならない場合は、次の予約日を待たず、治療を受けた歯科医院へご連絡ください。[4]
③ 噛み合わせや食いしばりで負担がかかっている
詰め物・被せ物が先に強く当たる場合や、歯ぎしり・食いしばりがある場合には、歯を支える組織に負担がかかり、痛みにつながることがあります。
「治療後から、その歯だけ先に当たる」「朝起きたときに顎も疲れている」といった情報も、原因を調べる手がかりになります。ご自身で歯や被せ物を削らず、ご相談ください。[4] [5]
④ 歯や歯の根にひび・割れがある
歯や根にひび・割れがあると、そこから細菌が入り、周りの歯ぐきや骨に炎症が生じる場合があります。噛んだときの痛みや腫れを繰り返すこともありますが、症状が目立たない場合もあります。
歯を残せるかどうかは、ひびの位置や広がり、周囲の状態などによって異なります。[6]
⑤ 歯周病など、歯ぐき側に問題がある
神経のある・なしにかかわらず、歯周病などで歯ぐきや歯を支える組織に炎症が起きれば、腫れや出血、噛むときの痛みが出ることがあります。歯の根の中だけでなく、歯ぐきの状態も確認します。[7]
その歯以外が原因のこともあります。隣の歯や顎の筋肉などの痛みを、治療した歯の痛みのように感じる場合もあります。原因がはっきりしないときは、再治療を繰り返す前に、周囲も含めて慎重に確認します。[8]
| 痛みが出た時期 | 確認するポイント |
|---|---|
| 根の治療の直後 | 処置後の炎症、痛みが軽くなっているか、噛み合わせなど。 |
| 被せ物を入れた後 | その歯だけ強く当たっていないか、根や歯ぐきにも問題がないか。 |
| 数か月〜数年後 | 感染の残存・再感染、むし歯、ひび・割れ、歯周病など。 |
※時期だけで原因を特定することはできません。長期間たってから、追加の治療が必要になる場合もあります。[3]
受診の目安
こんな症状はご相談ください

早めに歯科医院へご相談ください
- 噛むと痛い、歯が浮く感じが続く・繰り返す。
- 治療後の痛みが数日たっても軽くならない。
- 歯ぐきにできものがある、膿が出る。
- 被せ物がぐらつく、仮の詰め物が外れた。
当日中に連絡し、受診先をご相談ください
- 強い痛みで眠れない、食事がとりにくい。
- 歯ぐきや顔が腫れている、腫れが広がっている。
- 歯の痛みや腫れに、発熱・強いだるさが伴う。
息苦しい・飲み込みにくいときは、救急受診を
口や顔・首の腫れに伴って、息苦しい、唾液も飲み込みにくい、口が著しく開きにくいなどの症状がある場合は、通常の予約を待たず、救急医療機関へご相談ください。
痛みがいったん引いても、原因がなくなったとは限りません。膿が出て痛みが軽くなった場合なども、放置せず診察を受けましょう。
原因を調べる検査と
状態に合わせた治療

まずは、痛みの出方とお口の状態を確認します
「いつから」「何をすると」「どのくらい」痛むのかを伺い、治療歴、噛み合わせ、被せ物、歯ぐき、歯の揺れなどを確認します。必要に応じて、歯を軽くたたいたときや噛んだときの反応、歯周ポケット、周囲の歯の反応も調べます。
レントゲンでは、根の治療の状態や歯を支える骨などを確認します。通常の診察・画像だけでは判断が難しい場合は、必要性を検討して歯科用CTなどを追加します。CTを全員に撮影するわけではありません。[10]
小さなひびや初期の変化などは、画像だけでわからない場合もあります。症状と複数の検査結果を合わせて判断します。
原因に合わせて治療を検討します
| 原因・状態 | 対応の例 |
|---|---|
| 根の中の感染 | 根の中を再び清掃・消毒する再根管治療。状態によっては外科的な処置なども検討します。 |
| 噛み合わせ・食いしばり | 必要な噛み合わせの調整、日中の食いしばりへの対応、適応がある場合のマウスピースなど。 |
| 歯周病などの炎症 | 歯ぐきの状態に合わせた歯周病治療、必要な場合の排膿など。 |
| 歯のひび・割れ | 歯を保存できる範囲を評価し、修復などを検討します。深い割れなどでは抜歯が必要な場合もあります。 |
| 治療直後の痛み | 痛みの程度と改善の経過を確認し、必要な処置や鎮痛薬、経過観察などを選びます。 |
治療方法は、歯を残せる見込み、治療の負担、患者さんのご希望を踏まえてご説明します。原因や状態によっては、専門の医療機関への相談が適している場合もあります。
抗菌薬だけで、根の中の原因を取り除けるわけではありません。歯の痛みすべてに抗菌薬が必要なわけではなく、原因に対する歯科処置が基本です。発熱や感染の広がり、全身状態などを確認し、必要な場合に処方します。[11]
受診までにできること
避けたいこと

- 痛む歯で硬いものを噛まない。やわらかく食べやすいものを選び、その歯に強い力をかけないようにします。
- お口の清潔を保つ。歯みがきは無理のない力でやさしく行い、腫れている場所を強くこすらないようにします。
- 痛み止めは、指示された用法・用量を守る。市販薬を使う場合は、持病・妊娠・授乳・アレルギー・服用中のお薬との関係を、歯科医師や薬剤師へ確認してください。複数の鎮痛薬を自己判断で重ねて使わないようにしましょう。
- 症状をメモする。痛みが始まった日、噛むと痛いのか、何もしなくても痛いのか、腫れ・発熱の有無、使用した薬をお知らせください。
避けたいこと
- 痛みを確かめるために、何度も強く噛んだり、歯をたたいたりする。
- 腫れを自分でつぶす、針で刺す、歯や詰め物を削る。
- 以前の残りの抗菌薬を、自己判断で飲む。
これらは受診までの負担を減らすための対応です。痛み止めで症状が落ち着いても、原因を確認するための受診は必要です。治療中の方は、担当の歯科医師からの指示を優先してください。[4] [9]
よくあるご質問

Q.痛いのは、歯の神経が再生したからですか?
- 通常の根管治療後に痛みが出たというだけで、神経が再生したとは考えません。歯の周りの炎症や噛み合わせなど、別の原因を調べます。
-
Q.冷たいものがしみるのは、なぜですか?
- 歯髄がすべて失われた歯は、通常、歯髄の神経を通じた冷たさへの反応を示しません。「その歯がしみる」と感じても、隣の歯など別の歯が原因の場合があります。歯髄の状態や治療歴も含め、どの歯が反応しているかを確認します。
-
Q.神経のない歯でも、治療に麻酔は必要ですか?
- 必要な場合があります。歯ぐきや歯の根の周りには神経があるため、処置する場所や炎症の状態に応じて麻酔を使用します。「神経がないから我慢しなければ」と思わず、痛みや不安をお伝えください。
-
Q.痛む歯は、もう抜くしかありませんか?
- 痛みがあるだけで、抜歯が決まるわけではありません。根の再治療や、噛み合わせ・歯ぐきへの対応で歯を残せる場合もあります。ただし、根が深く割れている場合など、保存が難しいこともあります。まずは原因を確認しましょう。[3] [6]
-
Q.痛みがなくなれば、通院をやめても大丈夫ですか?
- 痛みがなくなったことと、治療が完了したことは同じではありません。根の治療や、最終的な詰め物・被せ物が必要な場合は、予定された治療を続けましょう。治療後も、むし歯・歯周病・被せ物の状態などを定期的に確認することが大切です。[4]
参考資料
学会・公的機関の患者向け資料と学術文献をもとに、一般の方向けに整理しています。個々の診断・治療は、診察結果により異なります。
- Maeda T, et al. The Ruffini ending as the primary mechanoreceptor in the periodontal ligament. Crit Rev Oral Biol Med. 1999;10(3):307–327. 歯根膜の感覚神経に関する総説。文献を見る
- American Association of Endodontists(AAE). Root Canal Explained(歯髄・根管治療の基本)。
- AAE. Endodontic Retreatment Explained(再治療が必要になる理由と治療の選択肢)。
- AAE. Post Treatment Care(治療後の痛み・連絡すべき症状・歯の保護)。
- National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR). Bruxism(歯ぎしり・食いしばり)。
- AAE. Cracked Teeth(歯のひび・歯根破折)。
- NIDCR. Periodontal (Gum) Disease(歯周病の症状・診断・治療)。
- Nixdorf DR, et al. Differential diagnoses for persistent pain after root canal treatment: a study in the National Dental Practice-based Research Network. J Endod. 2015;41(4):457–463. 文献を見る
- NHS. Dental abscess(受診を急ぐ症状と受診までの対応)。緊急連絡先は日本に合わせて記載。
- AAE / AAOMR. Use of Cone-Beam Computed Tomography in Endodontics 2025 Update. 学会の公式解説(必要性に応じたCTの選択)。
- American Dental Association(ADA). Antibiotics for Dental Pain and Swelling Guideline, 2019(歯科処置の優先と抗菌薬の適応)。
資料確認日:2026年10月19日
写真は説明用に作成したAI生成のイメージであり、実際のスタッフ・患者さん・診療場面ではありません。院内写真を参考に制作しています。説明図は歯や周囲の組織を簡略化した模式図です。
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