性感染症(性病)と口内炎
口に現れる症状とは?

性感染症と口内炎のイラスト画像

性感染症(性病)にはいろいろな種類がございますが、実は口の中の粘膜に症状が出るものがあることをご存知でしょうか。

ここでは、なかなか他人に聞けない「性感染症と口内炎」について、解説致します。

性感染症とは?

性感染症とは、性的接触によって、ウイルスや細菌などに感染する病気の総称です。主に性器や口、肛門などの接触から感染し、1回の性行為でも感染することがあります。

*性感染症はSTI(STD):Sexually Transmitted Infections(Diseases)と略されます。

増加する口への感染

近年では、性的接触の多様化によって、性感染症は口への感染が増加しています。一方で、性感染症は必ず症状が出るわけではないため、自覚症状がなくても感染していることもあります。

主な性感染症

主な性感染症には、

  • 梅毒
  • 口唇ヘルペス
  • クラミジア感染症
  • 淋病感染症
  • 尖圭コンジローマ
  • HIV感染症(エイズ)

などが挙げられます。

性感染症は放置してしまうと、不妊やパートナーに感染を広げる懸念があります。

梅毒

梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌による感染症です。

特徴

梅毒は感染すると時間と共に進行し、第1〜4期の段階に分けられます。梅毒は一度症状が消える期間があるため、治ったと間違われ、発見が遅れる傾向があります。

増加傾向

2011年以降、梅毒の感染者数は増加傾向にあり、国立感染研究所の調査によると、2022年で年間約1万3000人の感染者が報告されています。

症状

口に症状が現れるのは感染初期である第1〜2期(感染後約3ヶ月以内)で、口内炎や口角炎、白い粘膜異常(粘膜斑)が発生します。

さらに、進行した感染後期の第3期(感染後1年以上経過)では、舌に白い斑ら模様ができる「梅毒性舌炎」が生じます。なお、梅毒性舌炎は、2017年にWHO(世界保健機関)によって、口腔潜在的悪性疾患がん化する恐れのある病気)の一つに含まれています。

梅毒性舌炎(がん化の恐れあり)

淋病感染症

淋病感染症とは、淋菌という細菌による感染症です。

特徴

淋菌は粘膜から離れると数時間で感染力を失う菌で、口や性器などに感染し、放置すると不妊の原因になります。

症状

淋菌感染症の潜伏期間は約2〜7日とされ、口に感染すると、口内炎(*)を生じることがある一方で、無症状のことも多いです。

なお、性器に淋菌が感染している人の約10〜30%は、口にも淋菌が感染しているといわれています。

*淋菌性口内炎と呼び、1961年に報告されました。

クラミジア感染症

クラミジア感染症とは、クラミジア・トラコマチスという細菌の感染が原因で、最も患者数の多い性感染症です。

特徴

自覚症状がないことが多く、感染に気づかないことも珍しくありません。進行すると、不妊や母子感染の恐れがあります。

症状

女性

自覚症状はほとんどありませんが、不正出血や軽い生理痛のような痛み、おりものの増加などがみられることがあります。

男性

排尿時の痛みや尿道のかゆみ、尿道からサラサラとした膿が出ることがあります。

妊婦

流産や早産になることがあります。

新生児

肺炎や結膜炎を起こすことがあります。

口唇ヘルペス

口唇ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルスの感染が原因の病気で、唇や口周りに症状が出ます。

特徴

ヘルペスウイルスは一度感染すると、体内に一生潜伏し続け、体調を崩したときなどに再発します。性的接触だけでなく、唾液を介して、親子間で感染することもあります。

症状

口唇ヘルペスは、唇や口周りの皮膚に小さな水ぶくれを生じます。時間が経過すると、水ぶくれはつぶれてただれ、痛みやかゆみを感じます。

また水ぶくれは口の中にでき、同様の症状をきたすことがあり、「ヘルペス性歯肉口内炎」と呼びます。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマとは、ヒトパピローマウイルスの感染が原因の性感染症です。ヒトパピローマウイルスは性交渉の際、粘膜や皮膚の小さな傷から侵入して感染します。

特徴

尖圭コンジローマは唇や口の中の粘膜に発生することもあります。また稀にがん化することがあり、口腔がんとの関連も報告されています。

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口腔がん

症状

尖圭コンジローマは外陰部に、鶏のトサカのようなトゲトゲのような形やカリフラワー状の特徴的なイボが生じます。また性器のかゆみや違和感、性交渉時の痛み、おりものの増加を生じることもあります。

ただし、感染してもイボができず、自覚症状がないことも珍しくありません。

HIV感染症(エイズ)

HIV感染症とは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染が原因で、免疫系が破壊されていく病気です。

HIV感染症の進行に伴い、免疫力が著しく低下し、感染症やがん等を併発した状態をエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)と呼びます。

特徴

HIVは感染してすぐに症状が出るわけではなく、長期間無症状の場合があります。また近年、HIV治療は進歩し、早期に適切な治療を受けることで、通常の生活を送ることが可能です。

感染経路

性行為による感染が大半ですが、胎盤や産道、母乳を介しての母子感染も稀にあります。なお、唾液や尿からは感染しません。

感染率

1回の性交渉でのHIVの感染率は異性間で約0.03〜0.2%、男性間で約0.1〜3%とされています。

男女比

HIV感染者の約8割以上は20〜50代の男性と報告されています。

症状

HIVに感染後、約2〜4週間で発熱や倦怠感、頭痛などの風邪に似た症状が出ることがあり(「感染初期」)、消失後症状のない期間(「無症候期」)が続き、やがて免疫機能が低下するとエイズを発症します。

無症候期以降で、約40%の患者に口の中に症状が現れます。

口腔カンジダ症

口腔カンジダ症は、HIV感染者の約半数に見られ、カンジダ菌(カビ)が口の中に異常増殖する病気です。

口の中に白い苔のようなものが現れ、舌が痛い・変な味を感じることがあります。なお、白い苔はこすると、取れる特徴があります。

毛様白板症

毛様白板症とは、舌のふちに白い毛やシワのようなものができる病気で、HIV感染者の約20〜30%に生じます。

口腔カンジダ症と異なり、白い部分はこすっても取れず、抗真菌薬で消失しない特徴があります。

HIV関連歯肉炎・歯周炎

HIV感染者の特徴の一つで、歯茎に強い痛みや出血、口臭を伴う病気です。

カポジ肉腫

カポジ肉腫はHIV感染者の約3〜7%に併発する悪性腫瘍です。上顎の天井や歯茎に暗紫色の斑点が現れ、徐々に膨らんでいきます。また皮膚に同様の斑点を伴うことが多々あります。

性感染症(性病)の予防・対策

性感染症(性病)を予防するには、性行為のときにコンドームを正しく使用することが大切です。また不特定多数の人や見知らぬ相手との性行為を避けるのも、性感染症予防に重要です。

なお、一部の性感染症、例えば、ヒトパピローマウイルス感染症(尖圭コンジローマや子宮頸がんなど)はワクチン接種で予防することもできます。

まとめ

口内炎や口の粘膜の異常が、実は性感染症(性病)の症状の場合があります。

当院では大学病院口腔外科出身の歯科医師が在籍しております。気になる点や不安な場合は、遠慮なくお問い合わせください。

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(参考文献)

・「口唇に密生した尖圭コンジローマ」西山澄子先生ら 皮膚の科学 2007 年 6 巻 4 号 p. 331-332

・「パピローマウイルスと口腔粘膜病変」佐藤方信先生 岩手医大歯誌 12:113-122,1987

・「口腔毛状 白板 症 におけ るEpstein-Barrウ イル スの 電子 顕微鏡 学的 検 出 ―Airfuge(R)を 用 いた ネガ テ ィブ染色法の応用―杉原 一正先生ら 日本口腔外科学会誌 Aug.1990 P1828-1833.

・「Phelan, J. A., Saltzman, B.R., et al.: Oral find- ings in patients with acquired immunode- ficiency syndrome.」 Oral Surg Oral Med Oral Pathol 64: 50-56 1987.

・小森康雄 監 ・著: 歯科治療におけるエイズ. 第1 版,アースワークス 歯科出版局,東京,1998,45-76 頁.

・Phelan, J. A. and Klein, R. S.: Resolution of oral hairy leukoplakia during treatment with azidothymidine. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 65: 717-7201988.

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