粘膜の健康を助ける!
鉄分
鉄はとても重要な栄養素(ミネラルの一種)の一つで、体内に約3〜4g存在し、その約7割は赤血球をつくる材料として消費され、酸素を全身に運ぶ役割をしています。また口の中の粘膜の健康を保つのに役立っています。
鉄分の吸収率は約15%(*1)といわれ、吸収率の低い(不足しがち)な栄養素として知られ、日本の成人女性では鉄欠乏性貧血が約1〜2割、貧血症状のない鉄不足は約4割(*2)と報告されています。
目次
働き
働いている鉄「機能鉄」
体内の鉄の約70〜75%
・赤血球中のヘモグロビンの材料となり、全身に酸素を運ぶ働きを担っています。
・筋肉中のミオグロビンの材料となり、筋肉に酸素を蓄える働きを担っています。
蓄えてられている鉄「貯蔵鉄」
体内の鉄の約25〜30%
肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えられ、不足したときに使われます。
鉄が不足するとどうなる?
貧血
鉄分は赤血球をつくるための材料の一つで、鉄分が欠乏すると貧血になります(鉄欠乏性貧血)。
舌や歯茎などの粘膜の痛みや違和感
鉄欠乏性貧血の方の約1〜2割にみられる症状で、貧血に加え、舌炎(舌の痛みや違和感)や口角炎、嚥下障害(飲みこみづらい、のどのつかえ感)、匙状爪(スプーンネイル:爪の異常)などの症状がみられる場合、Plummer-Vinson (プランマー・ビンソン)症候群という病気の疑いがあります。
その他の症状
動悸や息切れ、疲れやすい、顔色が悪い、記憶力や集中力の低下、異食症(氷などを好んで食べる)、こころの不調などがみられることがあります。
原因
鉄分が欠乏しやすい状況
- 鉄分の消費量が大きい場合
- 摂取不足、吸収率の低下が原因の場合
鉄分の消費・喪失が多い場合
月経のある女性や成長期の青少年、妊産婦の方々がこれに該当します。
特に月経のある成人女性の約2割に、鉄の不足による貧血(鉄欠乏性貧血)がみられるといわれています。
そのほかでは、胃・十二指腸潰瘍やポリープなどで消化器官に出血が起きている場合に、鉄分の喪失があります。
鉄分の摂取が少ない場合
食事量が少ない方や食事の栄養バランスが偏っている場合には、鉄分が不足しがちになります。
鉄分がうまく吸収できない場合
鉄分の吸収には胃酸が関わっているため、胃の切除手術をされた方は鉄分の吸収が低下し、不足しやすいことが報告されており、胃癌の手術後の患者の約7割が鉄分の欠乏を発症するという報告もあります。
(参照)河内英明先生. 消化管症候群(第2版)上ーその他の消化管疾患を含めてー大阪.日本臨牀社
貧血以外の症状
動悸や息切れ、疲れやすい、顔色が悪い、記憶力や集中力の低下、異食症(氷などを好んで食べる)、こころの不調などがみられることがあります。
豊富に含まれる食品
食品に含まれる鉄分は全体的に吸収率が低いですが、その中でも吸収率の良い「ヘム鉄」と吸収率の低い「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄 吸収されやすい鉄分
レバーや赤身の肉、赤身の魚などの動物性食品に多く含まれます。
非ヘム鉄 吸収されにくい鉄分
野菜や海苔、納豆などの植物性食品に多く含まれます。
鉄分の種類による吸収率の違い
「ヘム鉄」は主に動物性食品に含まれ、吸収率は約10〜20%とされています。一方で、「非ヘム鉄」は主に植物性食品に含まれ、吸収率は約1〜8%とされ、「ヘム鉄」の方が吸収率が良いことが知られています。
摂るときの工夫
一緒に食べる食品を工夫することで、吸収率の低い鉄分を効率よく摂ることができます。
鉄の吸収率を高めるもの
ビタミンC
柑橘類や野菜、イモ類などはビタミンCを豊富に含むため、一緒に摂ることで鉄分の吸収率を高めることができます。
タンパク質
肉や魚、卵、乳製品などと一緒に摂ると効果的です。また牛乳に含まれるCPP(カゼインホスホペプチド)も鉄分の吸収を高めることが報告されています。
胃酸の分泌を促すもの
胃酸の分泌が高まると、鉄分は吸収されやすくなります。
酸味のある食材(柑橘類や酢など)と組み合わせて調理したり、よく噛んで胃酸を出しやすくすると良いでしょう。
鉄の吸収を妨げるもの
フィチン酸
玄米や大麦、キヌア、ハトムギなどの穀類、とうもろこしや大豆、インゲン豆などの豆類に含まれます。
タンニン
緑茶や紅茶、コーヒーなどに含まれます。
シュウ酸
ほうれん草やタケノコ、ココア、バナナなどに含まれます。
食物繊維
おからや大豆などの豆類、きくらげなどのキノコ類などに多く含まれます。
一部のお薬
胃薬(H2受容体阻害薬、プロトンポンプ阻害薬)、抗生剤(ニューキノロン系、テトラサイクリン系など)、甲状腺ホルモン製剤等の種類によっては鉄の吸収を妨げるものがあります。
摂りすぎた場合の症状
通常の生活では過剰になる心配はありません。サプリメントなどの過剰摂取が問題で、鉄沈着症や便秘、胃の不快感などが報告されています。
また鉄分を過剰に摂ると、亜鉛や銅の吸収が低下します。
まとめ
鉄分は体のすみずみまで酸素を運日、細胞の新陳代謝にも関わっています。鉄分が不足すると細胞の健康が保てず、舌の表面に炎症を起こす(舌炎)ことがあります。
当院では口内炎や舌炎の方の栄養指導も承っております。舌や口角の痛み(ヒリヒリする)、違和感などでお困りな場合はお気軽にご相談ください。
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(参考)
*1:FAO(国際連合食糧農業機関)やWHO(世界保健機関)による。
*2:厚生労働省による「国民健康・栄養調査」(2008年度)、「II.鉄欠乏 5.鉄欠乏性貧血の治療指針」日本内科学会雑誌 第99巻 第 6 号・平成22年 6 月10日、「鉄代謝と貧血」日本内科学会雑誌 107 巻 9 号