歯が溶ける(酸蝕歯)の原因は?
酸味のある食べ物は注意?!
歯を溶かす原因となる酸には、様々な種類があります。酸は主に食べ物や飲み物に含まれる酸や胃酸などに分けられます。
ここでは、歯を溶かす原因となる食べ物や飲み物、病気や障害について、解説致します。
酸性度の強い食べ物・飲み物
私たちの歯は酸に弱く、酸に長時間接触したり、強い酸にさらされると歯が溶けてしまいます。酸性度が強い(pHの数値が低い)食べ物や飲み物は、私たちの身の回りにたくさんあります。
一般的には「すっぱい」と感じるものは酸性度が高いですが、あまり酸味を感じないものでも、実は酸性度が高いものもあります(以下参照)。
- 炭酸飲料(pH2.2〜2.9)
- お酢系飲料(黒酢などを含む。pH2.7〜3.1)
- 柑橘類果実(レモン、グレープフルーツ、オレンジなど。pH4.0前後が多い)
- 清涼飲料水、スポーツ飲料、栄養ドリンク(pH3.5)
- ビタミン系飲料、サプリメント(栄養ドリンクやビタミンCサプリメントなど。pH2〜3前後)
- 調味料(ケチャップやドレッシング。pH4.6以下)
- コーヒー(pH5)
- 酒類(pH2〜5前後)
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(pH5.5以下は歯が溶けやすい)
お酒のpH値 | |
---|---|
酎ハイ | 2.5〜2.9 |
梅酒 | 2.9〜3.1 |
白ワイン | 2.3〜3.4 |
赤ワイン | 2.6〜3.8 |
ハイボール | 3.6 |
マッコリ | 3.8 |
ビール | 4.0〜4.4 |
日本酒 | 4.3〜4.9 |
ウイスキー | 4.9〜5.0 |
要注意な方
- 間食をよくする
- 味見をよくする(料理人等)
- 口が乾く(唾液が少ない、口呼吸)
- 飴をよくなめる
食事後は口の中が酸性に傾き、歯が溶ける(脱灰)環境になります。ただ、唾液で溶けた歯は再び補修(再石灰化)され、口の中も中性に戻ります。
しかし、食べる・飲む回数が多い方や唾液が少ない方は、脱灰と再石灰化のバランスが取れず、歯が溶けやすくなります。
(関連記事)
工場で酸を扱う仕事の方
メッキ工場やガラス工場など酸を扱う方は一般の方と比べ、酸蝕歯が起きやすい傾向にあります。
*酸を扱う仕事の方の場合、特殊歯科健康診断(職業性歯牙酸蝕症健康診断)が義務付けられています。
胃酸
私たちの体内にある胃酸はとても強い酸(pH1〜2)で、胃酸が頻繁に逆流すると歯が溶けてしまいます。胃酸が逆流する病気や障害には以下のものが挙げられます。
胃酸の逆流を伴う例
- 逆流性食道炎(胃食道逆流症)
- 摂食障害(過食症や拒食症を含む)による嘔吐
- つわりによる嘔吐
- アルコール中毒
逆流性食道炎は歯科と関係がある?!
逆流性食道炎はドライマウス(口が乾く)や睡眠時無呼吸症候群、歯ぎしりを合併することがあり、歯科と関連しています。
逆流性食道炎とドライマウス(口腔乾燥症)
島根大学医学部によると(*1)、逆流性食道炎(胃食道逆流症)の患者の約半数以上が口の乾きを訴え、37%が唾液量が減っていることが報告されています。唾液が少なく、口が乾いていると口の中を中和できず、歯がさらに溶けやすくなるため、ドライマウスの治療・対策も行うことが大切です。
逆流性食道炎と睡眠時無呼吸症候群
新潟大学など(*2)によると、睡眠時無呼吸症候群の患者の約3〜6割が逆流性食道炎を発症することがで報告されています。
また逆流性食道炎と睡眠時無呼吸症候群を合併している場合は、睡眠時無呼吸症候群の治療・対策をすることで、逆流性食道炎(胃食道逆流症)も改善することも報告されています。
逆流性食道炎と歯ぎしり
逆流性食道炎の方では睡眠中にも胃酸の逆流が認められ、歯ぎしりの頻度が高まることが報告されています(*3)。
また胃食道逆流症の治療薬(プロトンポンプ阻害薬)で、歯ぎしりの頻度が減少することも明らかになっています(*4)。
お薬
うがい薬
消毒薬やうがい薬としてよく使われるヨード系のうがい薬も酸性です。
添付文書(同封されている薬の説明書)によると、希釈後の酸性度はpH1.5〜3.5と記載され、強い酸性を有します。
また過度あるいは誤った使用は酸蝕症となる可能性があります。
飲み薬、サプリメント
その他、以下の飲み薬やサプリメントも酸性の成分が含まれます。
- 痛み止めのアスピリン(アセチルサリチル酸)
- ビタミンC(アスコルビン酸)サプリメントなどがあります。
まとめ
歯が溶けるのを防ぐには、生活習慣の改善、持病の治療あるいは服用中のお薬の相談が必要なこともあります。溶けた歯は放置せず、早期の修復や予防がおすすめです。
当院では相談のみの診察も承っております。酸蝕歯や薬、摂食障害について気になる点がございましたら、お気軽にご相談ください。
(関連記事)
(参考文献)
*1「GERDは歯科疾患の原因となり得るか?」治療,92:481~484
*2 以下参照
- 新潟大学大学院医歯学総合研究科内部環境医学講座(第二内科)中山 秀章先生ら「睡眠時無呼吸症候群の胃食道逆流症合併とCPAPによる治療効果の検討」
- 菅井 望,鈴木潤一先生ら:閉塞性睡眠時無呼吸症候群における胃食道逆流症の合併頻度と病態,消化器科, 38(2):143〜147,2004.
- 平田正敏先生ら:閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者における胃食道逆流症について、日本呼吸器学会雑誌、40(増):168,2002
- Valipour,A.,Makker,H.K.,Hardy,R.,et al.:Symptomatic gastroesophageal reflex in subjects with a breathing sleep disorder,Chest,121:1748〜1753,2002.
- Green,B.T.,Broughton,W.A.,O’Connor,J.B.,et al.:Marked improvement in nocturnal gastroesophageal reflex in a large chort of patients with obstructive sleep apnea treated with continuous positive airway pressure,Arch Intern Med,163:41〜45,2003.
- 岩切龍一先生ら:胃食道逆流症の頻度,消化器科,28:315〜320,1999.
- Ing,A.J,Ngu,M.C.,Breslin, A.B.:Obstructive sleep apnea and gastroesphageal reflux, Am J Med,108(Suppl 4a):120S ~125S, 2000.
- 「睡眠時無呼吸症候群(OSAS)合併逆流性食道炎患者の臨床像と治療に関する検討」濱田博重,城戸聡一郎,春間賢 日本消化器病学会雑誌103,A98
*3 「Association between sleep bruxism and gastroesophageal reflux disease」Cristiane Machado Mengatto DDS, MSc, PhD , Charlene da Silveira Dalberto , Betina Scheeren DMD , Sérgio Gabriel Silva de Barros DMD, MSc, PhD
*4「Association Between Nocturnal Bruxism and Gastroesophageal Reflux」SLEEP, Vol. 26, No. 7, 2003
Shouichi Miyawaki, DDS, PhD; Yuko Tanimoto, DDS; Yoshiko Araki, DDS; Akira Katayama, DDS; Akihito Fujii, DDS; Teruko Takano-Yamamoto, DDS, PhD